建物の維持保全 改訂版
2021年07月04日
建物の維持保全 改訂版
はじめに お客様相談室長 畑 靖男 2008年04月01日版を改訂
この一文は、独立行政法人 雇用・能力開発機構 の依頼により、賃貸住宅管理会社の社員教育向けに作成し、能力開発セミナーで講義したテキストを初版として、現在改訂を行っております。
マンションを買おうとするとき、「マンションは管理を買え」といわれる。
マンションを購入する時に、価格に見合う外観や住みよさを求めるのは当たり前だが、管理は一部を除いて具体的に目に見えるものがないので、管理まではなかなか気がまわらないのが普通であろう。しかし、長い目で見ると管理の良し悪しでマンションの資産価値はおおいに違ってくる。
賃貸住宅においては、従来、建物所有者は、家賃収入や募集という面ばかりに目が行き、建物の管理という面ではあまり重要視していなかった。それゆえ、物件の近か場の不動産屋さんに依頼することが多く、管理といえば清掃ぐらいで、それも片手間に行なうような状態であった。法的に義務付けられた設備の点検でさえ放置されることもしばしばあった。
しかしながら、賃貸住宅にも、建物を資産としてとらえ、入居者管理だけでなく、建物との一体的な管理を専門的に実施していこうという機運が生まれ、単なる不動産会社でなく、管理を主業務とする賃貸住宅管理会社が生まれた。
賃貸住宅管理会社が、建物の維持管理をシステム的に運営するようになって日はまだ浅い。民営借家は分譲マンションより歴史も古く、戸数も数倍もあるが、管理という面ではおろそかにされていた。経済状況での右肩上がりが鈍化し、家賃収入の増額が望めなくなると、今ある資産をいかにして良質の状態を保ち、できるだけ長持ちさせるという方向に向かうのは必然的なことであろう。
分譲マンションの管理には、マンション管理士、管理業務主任者という国家資格が生まれたが、賃貸住宅管理においても、日本賃貸住宅管理協会で平成7年5月に「賃貸住宅管理業務マネージャー」が、平成19年7月に「賃貸不動産経営管理士」制度が創設された。これは、「公益財団法人 日本賃貸住宅管理協会」、「公益社団法人 全国宅地建物取引業協会」、「公益社団法人 全日本不動産協会」の3団体が、それぞれの団体で実施していた賃貸不動産の管理に関わる資格・研修制度を統一化して、「一般社団法人 賃貸不動産経営管理士協議会」を結成、より質の高い賃貸管理業務を志すものである。そして、本年、令和3年度においては、国家資格として「賃貸不動産経営管理士」制度が創設される。
近年になって、賃貸住宅の管理は、社会情勢の変化や技術の進歩等により建物や設備等が、高度化・複雑化・多様化し、一方、入居者の意識の向上も相まって、きめの細かい、しかも質の高い管理が求められるようになり、従来型の言い換えると片手間の管理では対応しきれなくなった。そこで、社会的ニーズに対する使命感と専門的な知識とに基づいて、第三者的な公正な管理のできる専門家が求められるようになった。
その目指すところは、今後ますます重きをなす賃貸不動産管理業務の公共性と社会的意義の重要性に鑑みて、同業務のプロフェッショナルを育成し、賃貸不動産管理業の社会的向上を図ることである。そのために、賃貸不動産経営管理士には、法令遵守(コンプライアンス)と高い専門性や道徳・倫理性を求める「賃貸不動産経営管理士『倫理憲章』」を設け、この憲章を誠実に遵守する旨の署名捺印が義務付けられている。
さて、賃貸管理業務は、次表のように多岐にわたっているが、ここでは、建物の維持管理と長期修繕計画について述べる。本書は、賃貸住宅管理の中でも、建物の維持管理に関心を持つ人への入門書である。
第1章 建物の維持保全
(1)建物の保全とは
人は生まれた瞬間から老化が始まるといわれる。しかし、人は20歳ごろまでは老化する以上に成長するので老化していることに気づかない。今日、日本人の寿命は80歳を数えるが、人生も半ばを超えるとケアーが大変である。美しく丈夫で長生きするためには、日ごろの手入れが欠かせない。
常に健康状態に留意して、悪いところを早め早めに改善していくことが、美しく丈夫で長生きする身体を作ることになる。建物の場合、建物が竣工し引渡しを受けたときから建物の劣化は始まる。人間と違って、引渡しを受けた後の成長はない。手直しはあるがそれは修正であって成長ではない。ただ、竣工後10年ぐらいの間は、鉄部の塗装等一部の劣化を除けば大きな修繕や改修はない。とはいえ、そこに建物が建って運用されれば、いろいろの故障やトラブル等不測の事態も起きる。建物は成長がない代わり、日ごろから手入れすることによって、障害を防ぎ、美観を保ち、長持ちさせることはできる。故障やトラブルの修理修繕、日常的な巡回点検、法定で定められた保守点検等によって、住みよい環境の整美と建物の維持管理を計ることを、建物保全という。
<建物の保全の目的>
1.機能を十分発揮させ、長期の使用に耐える。
2.財産として保全する。
3.大修繕の実施時期を遅らせ、不経済支出を防ぐ。
4.居住環境を良好な状態に保持する。
5.災害を未然に防止する。
建物や敷地などを適正に維持保全して資産としての目減りを防ぐために、オーナーの手助けをすることが、賃貸管理会社の大切な仕事なのである。ただ、入居者の募集や家賃の徴収だけでは、単なる不動産屋にすぎないことになる。
<維持保全業務>
建物の維持保全とは、大きく分けると次のようになる。
①清掃や点検業務を中心とした日常の維持管理業務
②入退去に伴う原状回復工事と入居中の室内修理
③共用部分を中心とした経常修繕や計画修繕および特別修繕
これを一覧にすると次のとおりである。
維持保全 a.維持管理 b.保守点検 c.清掃
修繕 a.経常修繕 b.計画修繕 c.災害復旧(特別修繕)
a.改良 b.改修
*用語の解説
保守点検・清掃・・清掃、法定点検、自主点検、定期点検,臨時点検
経常修繕・・・・・日常的な小修繕(軽微な補修が中心,事後処理的)
計画修繕・・・・・周期的な大規模修繕(事前の予防的処理)
特別修繕・・・・・緊急時その他特別の事由による必要な修繕
*修繕・改良・改修の相違
修繕: 修繕とは、劣化や消耗が進行して建物の機能が損なわれたときに、部材の補修や取替えを行ない、当初の性能まで回復させることである。
例:エアコンや給湯器等の修理や交換等
改良: 改良とは,建築や設備の機能,性能が陳腐化して使用上,居住上問題がある場合,当初の性能を超えて,または新しい設備等を付加してレベルアップをはかることである。
例:浴室のバランス釜の交換等
改修: 改修とは,技術等の進化により,その時代に合わせ,グレードアップを含めた修繕を行なうことである。特に建築後相当年数を経過した建物の場合には必要とされる。
例:バリアフリー対応やペット飼育対応等
(2)ライフサイクルコストと耐用年数
(イ)ライフサイクルとは
人が受胎し、生まれ出で、幼稚園に入り、小学校から上級学校を卒業して、社会人になり、配偶者を得て、子供を生み 育て、やがて年老いて死去する。これを人間のライフサイクルという。
建物のライフサイクルとは、建物を建てようと企画し、設計して、建築にかかり、完成竣工して建築主に引き渡されて後、その建物が生活や事業等に使用されて年月がたち、その間だんだんと老朽化していき、ついには使命を終えて解体撤去されるまでをいう。まさに人生と同じである。
a.企画 b.設計 c.建築 d.竣工 e.引渡
f.生活・事業 g.保全・改装運用(老朽化)h.解体撤去
(ロ)ライフサイクルコスト
企画設計から解体撤去まで、すなわち前述したライフサイクルにかかる費用すべての費用の総額をいう。
ライフサイクルコストは大きく二つに分けられ、さらに二つずつに分けられる。
ライフサイクルコスト
a.イニシャルコスト ①企画設計コスト ②建設コスト
b.ランニングコスト ①運用コスト ②解体処分コスト
賃貸管理会社がかかわる領域は、このランニングコストの領域、その中でも特に運用にかかわる期間である。
ランニングコストはイニシャルコストの2倍以上の費用がかかるともいわれる。
また、運用期間中は保守保全を行ない、維持管理されるが、この良し悪しで建物の寿命が大幅に違ってくる。ある試算によると良好な保全を行なった場合、不良な保全の建物に比べ、建物の耐用年数が倍近く延びるという。
いいかえると、良質の維持管理をされた建物は、必然的にランニングコストが大幅に削減されるということである。いかに日常のメンテナンスが大事かよくわかる。
これからの保全の考え方
(イ)管理の目
建物の良質な維持管理とは、以上のようにランニングコストをいかにして縮小し、建物の財産価値を保持し、住環境を良くし、耐用年数をできるだけ長くすることといえる。
そこで大事なことは、管理に携わる者は、「管理の目」を養うことである。
管理会社の社員が建物を訪れたとき、何気なく見過ごしたり、気づかなかったりしたことが、後でトラブルや災害をもたらすことがある。たとえば、揚水ポンプに近づいたが、異音が出ているにもかかわらず気がつかなかった結果、揚水ポンプが動かなくなって、断水騒ぎが起きたとか、階段の下の吸殻や集合ポストのチラシ等があふれているのにいつまでも放置し、取り除かなかったがゆえに、ある日オーナーが建物を訪ねた際、発見し、お叱りだけでなく、管理委託契約の解約にまで発展したケースもある。
過去の例ではあるが、埼玉県でプール事故があった。遊泳者が排水口の蓋がはずれていると知らせたのにもかかわらず、対処しなかったために痛ましい死亡事故につながった。警備員が知らせを受けたとき、状況を確認し、責任者へ連絡し、保安措置を行なえば事故は防げた可能性が高い。
「管理の目」とは、以上のように普段と違う異常や現象に気づき、それに対処する気構えである。異常性を取り払うことによって、正常に戻るならそれでよし、もし手に負えず専門家の手が必要なら早急に手当てする必要がある。
日ごろからそのような心構え、すなわち「管理の目」を養うことが肝要である。
そこでもうひとつ大事なことは、管理の目を生かすための幅広い知識が求められる。
なぜなら、異常性を発見したときは、敏速な対応が重要であり、そのためには、当人が対応できない場合、適切な専門家を選び派遣しなければならない。見当違い専門家を派遣しても、用をなさないことは言うまでもない。
(ロ)事後保全と予防保全
<事後保全>
雨漏りや扉の開閉不良等建物の異常、あるいはトイレの水が止まらないとかお風呂のお湯が熱くならないなど設備の不良等が発生し、それらの原因を見極め修理することを事後保全という。
人間でいえば、けが怪我をしたり病気になったとき医者にかかったり薬を飲んだりして直すことと同じであり、人間の場合は対症療法という。
これは、不良箇所や不具合なところが顕在化してから対応するので、一時的に機器の停止や運行の停止等せざるをえず、入居者に迷惑をかけるだけでなく修理に要する費用もかさ張り、時間もかかる。また、不良部分が顕在化するまで放置されてきたので、たとえばポンプが不良の場合、その運転に要する電気代も余分な負担がかかっている。
また、不良部分が顕在化した後もすぐに対処せず、そのまま放置したりして対応が一歩遅れたときに、二次災害が発生する恐れがある。そうするとその処置はさらに複雑化し、費用も増え、オーナー、入居者双方に被害を与え、不平、不満,不信等めばえ、場合によっては損害賠償等最悪の事態を招くこともある。そのようなことを避けるため、日常のメンテナンスに気を配り、それでも故障等発生したときは速やかに対処することが大事である。
<予防保全>
建物や設備について、法令で定期的に保守点検するように定められていますが、法定点検だけでなく、常日頃の日常点検によって建物や設備の機能や性能を把握し、それらの劣化状況や消耗の状態を見極め、不具合が生じる前に手当てをすることが必要である。この予防的措置を予防保全という。
人間でいえば、定期的に健康診断を受けて、具合が悪いところがないかチェックし、糖や蛋白等の数値が上がっていたりすると、食事や運動等に工夫をこらし改善に努め、それ以上悪くならないよう努力する。このような行為を予防医療という。
建物にも設備にも一定の寿命がある。
たとえば、屋上の防水は構造や工法にもよりますが15~20年位、鉄部塗装は5年位、揚水ポンプは12年位でリニューアルの目安となっている。
しかしながら、平素から手入れし丁寧に扱うことによって寿命を延ばすことは可能であると、先に述べたとおりである。建物や設備を注意深く観察し、異常を早期発見することによって、修理修繕費用を最小限に抑えることができる。
このことは人間に置き換えれば一目瞭然である。病気を治すより病気にならないようにする、もし病気にかかったのなら、早期に原因を発見し早く治す。そうすれば治療費は大幅に削減される。
建物や設備は故障してから直すのでは、修理がきかずに本体の交換という大きな費用発生にもつながる。
これからの保全は、この予防保全に力を入れなければならない。
第2章 賃貸住宅における建物・設備の点検
(1)点検業務の目的と管理会社の役割
建物の寿命を長引かせるには,予防保全が欠かせないことは前章で述べたとおりである。
よく言われることだが,人の住まない、あるいは使用されていない建物は荒廃が早く始まるという。建物は人が住み、使用することによって始めて活きるのである。
しかしながら、単に住んだり使用しただけでは、建物を本当に生かしているとはいえない。建物の持つ本来の機能や性能を活かし、財産としての資産価値を高めるよう努める。また、快適な住環境を整備し、オーナーにも入居者にも喜ばれるように維持管理する。そうすることによって、建物は生かされているといえる。
そのためには、日常の点検や清掃が欠かせない。それもただ漠然と見て廻るだけでは点検とはいえない。目的意識を持って、注意深く観察し、記録し、報告することによってはじめて点検業務を行なったといえる。
①点検業務の目的
建物の設備の点検業務とは、各設備の異常の有無を確認し、部品の劣化や磨耗の状態、機械等の作動状況を調べ、その記録をまとめることである。たとえば、揚水ポンプのモーターの音や作動時の温度とか、非常灯の点灯状況や器具の錆の状態等を調べることである。そのことによって現状を把握し、手入れをスムーズに行い、故障の未然の防止とトラブルへの対応をすばやく実施できる。その結果、居住環境を良好にし、ひいては資産価値を高めることにもつながる。
②点検業務と管理会社の役割
点検業務は、建物、設備だけでなく外溝や植栽等清掃状況も常に対象にしなければならないことは先に述べたとおりである。その点検項目は多岐にわたり、設備によっては法定点検も実施せねばならず、費用もかかる。管理会社としては、点検業務の目的をオーナーに理解していただくよう、十分な説明を要する。特に法定点検は専門家に依頼せざるをえず、所轄官庁への報告義務もあり、費用がかかること、建物や設備には寿命があり、適宜手を入れる必要性があること、耐用年数がきたものは交換しなくてはならないこと、製品メーカーは部品の保管義務は10年で、それ以降修理する場合部品がないこともありうる等、あらかじめ理解していただかなければならない。そして、費用の見積りと結果報告は必ず実施しなければならない。これを怠るとオーナーの不信を買うことは論を俟たない。
③日常点検業務と法定点検業務
点検業務は、オーナーが自主的に実施する日常点検と各種の法や条例の定めに基づき実施する法定点検に大別される。日常点検は継続的に一定の定めに従って行ない、その結果を記録に残すことが大切である。法定点検は、対象となる建物や設備について法や条例の定めに基づき、有資格者が定期的に点検し、所轄官庁へそれぞれの定めに従い報告することが義務付けられている。
建物の建築工法や素材、建物の規模、設備の種類等によって日常点検の内容は異なるが、一例として、住宅金融公庫の「公庫賃貸住宅維持管理ガイドブック」より点検調査票を次ページに引用する。
<維持管理計画>
維持管理業務を遺漏なく効果的に実施するには、管理計画を立てることが大切である。
計画には、日常的なものと定期的なもの、修繕に関するものとがある。
日常的管理計画 清掃 日常清掃 清掃道具、消耗品の在庫確認
設備 運転・作動状況 点灯状況、管球類の在庫確認
定期的管理計画 清掃 定期清掃 植栽・剪定
設備 法定点検
修繕計画 経常修繕 計画修繕
これらの計画を年間計画、月間計画などに組立て、効果的に運営していくことである。
法定点検では、毎月1回、半年に1回、1年に1回等建物や設備によって点検業務の回数が異なるので、費用の面からも業務の立会い等人手の面からも重複しないよう注意することが大切である。
(2)日常点検と法定点検
①日常点検
建物は、竣工し引渡しを受けた瞬間から劣化が始まることは前にも述べたとおりである。
建物や設備の機能や性能を維持し、耐用年数を延ばすためには、常日頃から、計画的にかつ定期的に点検する必要があり、日常点検は、週1回とか月1回とか定め、定期的、計画的に自主点検表や建物・設備チェック表などによって、点検し記録する。
建物の内外を清掃し、ゴミ置場や自転車置場、集合ポスト等を整理整頓し、入居者に良好な住環境を提供する。建物を目視点検し、外壁の亀裂やタイルのはがれや鉄部の錆の進行状態をチェックする。設備機器類の運転状況や作動状況を点検し、照明の点灯状況を確認して球切れ等あれば電球等交換する。といったことを日常の巡回の中で行ない、設備機器類の調整や部品の交換、清掃用具や洗剤等消耗品の補充を常に心がけることが大切である。
②法定点検
建物や設備の点検については、法や条例の定めに基づき有資格者が点検しなければならないものがある。
建築基準法第8条には、「建築物の所有者、管理者又は占有者は、その建物の敷地、構造および建築設備を常時適法な状態に維持するように努めなければならない」と規定されており、同第12条には「一定規模以上・特定用途の建築物で特定行政庁が指定するものの所有者(又は管理者)は建築物の敷地、構造、設備について国土交通省令の定めるところにより定期的にその状況を有資格者に調査させ、その結果を特定行政庁に報告しなければならない」と定められている。
その他、消防法や水道法等各種設備にそれぞれの法に基づき点検や報告について定められている。すなわち、建物や設備機器類の取扱いには専門的知識を要するものがあり、有資格者が取リ扱かわなければ、設備によっては非常に危険であったり、逆に故障の原因を作ったり、場合によっては壊してしまったりする場合がある。そのため必ず有資格者が法定点検を実施し、報告することを定めているのであり、無資格者が法定点検をすることは、費用が安く済むからといって厳に戒めねばならないことである。
<主な法定点検>
1.建築基準法による調査・検査報告
イ.特殊建築物等定期調査
集合賃貸住宅は、法規上「下宿、共同住宅又は寄宿舎」の項に分類される。対象となる共同住宅は、一般的には地階あるいは地上3階以上の階にその用途に供する部分が100㎡を超えて存在する建物、又はその用途に供する部分の床面積の合計が300㎡以上の建物だが、地方自治体によりその基準は多少異なる。調査の周期は3年間隔である。
主な調査内容は、敷地・構造・防火・避難の4項目である。
ロ.建築設備定期検査
前項同様、対象となる建物の規模は、地方自治体により多少異なる。検査の周期は1年間隔である。対象となる設備は、換気・排煙・非常用照明・給排水の4項目である。
ハ.昇降機定期検査
原則として、エレベーター、エスカレーター、電動ダムウエーター、及び遊戯施設がすべて対象とされ、検査周期は1年である。なお、安全性の確保が極めて重要なものは周期が0.5年まで短縮される場合がある。主な検査内容は、調速機試験・非常止め試験・絶縁抵抗測定・油圧試験である。
2.消防法による点検報告
消防用設備等について点検を行なう。点検の内容は、機器の外観、機能及び作動状況を確認する機器点検と、設備全体の作動状況を確認する総合点検がある。機器点検の周期は6ヶ月に1回、総合点検は1年に1回と定められている。その結果について、共同住宅の場合3年に1回以上所轄の消防署長宛に届け出なければならない。
3.水道法による検査と清掃
都市部の水道の主なものは、専用水道ないしは簡易専用水道である。賃貸住宅の場合には、比較的小規模な建物が多く、ほとんどが簡易専用水道か、簡易専用水道以下の小規模受水槽水道と想定される。簡易専用水道の設置者は、法に定める管理基準に従い、その水道を管理するとともに、定期(1年以内に1回)に地方公共団体の機関または厚生労働大臣の指定する機関の検査を受けなければならない。なお、地方公共団体の一部では、条例などにより小規模受水槽水道の設置者に届出義務を課すほか、その維持管理についても簡易専用水道に準拠して行なうよう定めているところがある。
4.浄化槽法による検査
浄化槽の管理者には、浄化槽の保守点検及び清掃を行なうことが義務付けられている。浄化槽の清掃は、全ばっ気方式の浄化槽にあってはおおむね6ヶ月ごとに1回以上、その他の方式の浄化槽においては毎年1回以上行なわなければならない。また、その保守点検もそれぞれの種類や処理方式により、週1回から4ヶ月に1回まで、各々定められた基準によって行なわれなければならない。さらに、浄化槽の管理者は、毎年1回指定検査機関の行なう水質検査(定期検査)を受けなければならない。この場合、すべての浄化槽が定期検査の対象になる。ただし、定期検査にかかわる手続きを保守点検または清掃を行なう者に委託することができる。
5.電気事業法による点検・試験
業用電気工作物の中の、自家用電気工作物の設置者は、保安規定を定め電気主任技術者を選任しなければならない。ただし、電気工作物の工事、維持及び運用に関する保安の監督にかかわる業務を経済産業大臣の指定する法人などに委託するときは、電気主任技術者を選任しなくてもよい。
この保安規定に基づいて、毎月1回の点検と、1年1回絶縁抵抗測定や接地抵抗測定等各種試験が行なわれる。
(3)耐震性の留意点
昭和53年の宮城沖地震では、マンションに大きな被害が出また。とくに建物がゆがんだり、ひびが入ったり、また玄関ドアの開閉ができなくなり室内に閉じ込められるような事態も起き、従来の地震被害とは違う様相を持ったのだった。その結果、昭和56年の建築基準法の大改正となる。またこの地震で、地震保険の不備も露呈し、やはり見直される原因になってる。
平成7年1月17日未明、阪神・淡路地方に大地震が発生し、いたるところで地割れが発生し、木造家屋のみならず、マンションや神戸市役所の崩落等、鉄筋コンクリートの建物まで崩壊し、驚くことに阪神高速道路の橋脚まで倒壊して、世間を唖然とさせた。それまでも各地で大地震は発生していたのだが、大都市での地震では関東大震災以来の大被害を生んだのである。改めて建物の耐震性が問題化し、耐震基準の見直しや、道路、橋、駅舎等公共の建築物等の耐震性を強化するための補強工事が今も全国的に行なわれている。そこへ追い討ちをかけるように、耐震構造計算偽造事件が発覚し、根本的な対策が求められ検討されている。
では、耐震基準とはどういう基準かというと、建築物や土木構築物を設計する際に、それらの構造物が地震力に耐えられよう設計するための強度を定めた基準をいい、建築物には建築基準法及び同施行令などの法令により定められている。
<管理会社の責任範囲>
不動産の取引では、売買でも賃貸でも契約に際し、重要事項説明の中に耐震診断の有無とその内容についての説明が必要事項とされた。
賃貸住宅管理会社のほとんどは管理会社であると同時に不動産業を兼務している。ということは、建物の管理上も賃貸契約上も耐震診断の問題を避けては通れないのである。管理会社は、少なくとも耐震性に関する事実の掌握と結果の説明は必要である。
事実の掌握とは、建物の建築確認の所在,設計者や施工会社の把握、竣工日の確認、設計図面の所在等である。構造計算まで要求するむきもあるが、構造計算となると専門的過ぎて一般のものには無理である。必要であるならば、信頼できる専門家に依頼すればよい。ただし、費用がかかるので、オーナーに費用負担を確認することが必要である。
特に旧耐震基準(昭和56年5月31日以前)で建築確認を受けた物件は、新たに耐震診断を行なって安全性を確認することが望ましいので、オーナーに理解してもらうことが大切である。建物の安全性の判断は、管理会社には無理であるからです。
<賃貸人の責任範囲>
地震が発生し、建物が倒壊したり、崩落したりして、入居者に被害をこうむった場合、建物所有者の責任はどうなるのか。建物所有者の責任は、建物や付属工作物等が地震に耐えられるレベルに達していない場合、瑕疵責任を咎められ、損害賠償請求の対象になる。
建物が地震に対し耐えられる期待値は、震度5が基準であるとした判例もあり、前述した構造計算偽装事件でマンション購入者が退去勧告を受けたのは、新耐震基準の要求基準の半分であり、震度5の地震に耐えられないと判断された建物である。震度5の地震に耐えられない賃貸住宅は、入居者が被害を蒙ったとき、瑕疵ありとして責任を問われる可能性が大なのである。
塀も要注意で、特にブロック塀の場合、法令に従って構築されているかいないかで責任の所在が分かれる。事実、ブロック塀の倒壊によって、死傷者が出た例は少なくありません。賃貸住宅のうち、3階建て以上かつ床面積合計1000㎡以上の特定建築物と、これに満たない場合でも倒壊時に道路をふさぐ恐れのある特定建築物には、耐震改修促進法により、耐震化の促進を定めており、改修の費用補助、技術者派遣、低利融資等補助を定めていますが、都道府県ごとに異なるので、よく調べてオーナーへの助言を行なうことが管理会社に求められる。